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ザ・トライブ ~物凄い衝撃。静かなラストシーンは不気味にすら感じる。~

【タイトル】ザ・トライブ           ウクライナ2014/日2015

【監督/脚本】ミロスラヴ・スラボシュピツキー

【出演】グリゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノビコバ

【一言あらすじ】聾唖者、暴力×売春×強盗×賄賂×性交。

 

 

 

いやー、すごい映画を観ました。全編通して字幕なし、吹き替えなし、ナレーションなし、気の利いた音楽なし、手話だけで133分魅せます。

なんつーか、衝撃が大きすぎて何を書いたらいいか分かんねーよ.....ってのが正直なところです。

前情報として、台詞がない映画ってのは知っていました。ジャケット的にもエロティックな場面もあるんだろうなぁぐらいです。んで、そういう芸術性(エロティックシーンではなく、「台詞がない」という部分のこと)が高い映画はどちらかというと苦手だし、ストックの中にあるものの観るのは億劫だなって思ってました。僕は分かりやすい映画が好きだしね。でも、なんとなく観てしまった。怖いモノ観たさ的な部分があったのかもしれない。

なにがすごいって出演者全員が聾唖者なんですよ。健全者がする手話の演技と、聾唖者の手話の演技は違うってのを感じました。彼らの意思表示は手話だけに留まりません。表情や手話の際の激しい手の動きなども観なければならない。

台詞がないから、彼らの動き、表情を見逃せません。

 

 

 

感想・軽いネタバレ

 

 

 

評価

100点満点中70点

 

やっぱり特殊な映画だと思います。台詞がないってのは、こうも疲れるのか。という印象。演者がどのような会話をしているのか、どのような気持ちなのか、なにを伝えたいのか、そういうものが曖昧にしか観客には伝わりません。しかも、カメラワークが遠目からの撮影が多いです(しかも1カットが長いし、多分手持ちカメラ的な)。それもあってか、表情も読みにくかったりします。それでも、なにか惹きこまれるんです。

 

この映画は、すごく人を選ぶと思います。ストーリーはすごく面白いです。台詞なしではありますが、少しずつ話が分かってきて、個人的には好きな展開をしていきますし、生々しいシーンなんかもあり、リアリティもあり、善者だけしか出てこないHAPPY映画で終わらないのが好印象です。ただ、「台詞がない」ってのはすごいっていうのと同時にめんどくさい。

 

あと、ラストシーン的にダウナー映画でもある。

 

 

 

もう少しあらすじ

ある聾学校にセルゲイが入学してきます。その学校には不良グループ(トライブ:族)が存在していて、生徒の中には序列関係があります。そのグループの洗礼を受けたセルゲイも犯罪に手を貸していく中で、みんなから認められ、グループ内での地位が上がっていきます。やがて、グループ内の少女に恋をしてしまいます。

 

 

あのですね、全編手話だと上記の「もう少しあらすじ」が正しいかどうかも分かりません。ただ、大きな間違いはないと思います。ストーリーは大筋こんな感じです。

で、この映画は上の方で書いた「一言あらすじ」にもあるように、暴力シーンもあるし、強盗もするし、売春行為もあるし、という映画になっています。

だって、耳が聞こえないってだけで、人間だもん。耳が聞こえないからって生きていくために必要とあらば強盗もします。恋にだって落ちるし、セックスもします。

 

 

 

耳が聞こえないだけじゃない

 聾唖者って耳が聞こえないだけでなく、声を出すことができないんですね(ちなみに聾唖の「唖」は口がきけないことを意味しているそうです)。そのことが映画の中で大事な演出の要素になるんですが、色んな場面で声がない(声が出せない)ために、結構心にくるものがあります。

グループ内での地位が上がった一つの出来事として、グループ内の人間が車に轢かれて死ぬのですが、その死に方に「声が出せない」ことによる「静けさ」があり、印象に残るシーンになっています。

 

 

 

よかったところ・わるかったところ

良かったところは、どんな人間だろうと犯罪を犯す必要があれば悪に手を染めるということを表現しているところでしょうか。リアルだと思います。

映画を通して、犯罪を犯す理由は分かりません。強盗したりして金品を盗ったりしていますが、その必要性は分かりません。家族からの仕送りだとか、政府からの援助とか、そういうものがある描写は見当たらず、あるのは聾学校と生徒だけです。その中で不良グループは夜な夜な外に出て売春をしたり強盗をしたりしています。

セックスシーンで主演2人がシックスナインをしています。そこにはある種、絵画のような美しさがありました。ただ、そこに愛だとか恋だとか綺麗なモノはありません。

耳が聞こえないというよりは、声が出せないという要素のほうを重視したと思われる出来事がいくつか(上記の事故以外にも)あるのですが、その僕らにとっての異質性(健常者にとっては体験できない)があります。その演出は印象深いです。

ラストシーンの「声のない」雰囲気は不気味でもあります。

 

悪かったところは、暴力シーン、セックスシーンのリアルさがないところでしょうか。ただ、暴力シーンのリアル感のなさが、ラストシーンをよりよく魅せるための演出なのかもしれませんね。

映画のコンセプトを否定しかねないのですが、台詞なし、字幕なしってのは物足りない。字幕なし版と字幕あり版の見比べなんかをしたいと思っちゃいます。でも、題材は物凄く好きです。

 

 

 

 

もし観るか、観まいか悩んでいるのであれば、観てみてください。全員におすすめできる感じではないですが、気になっている人の背中は押したくなる映画です。

 

にしても、魅力的な映画なのに、魅力的な文章で感想を書けないのはもどかしいなぁ。

 

 


映画『ザ・トライブ』特報

 

 

 

鑑賞:2016.05.29